2021年09月20日

【前編】サクラノ詩 -櫻の森の上を舞う- 感想

20210920-00.png
制作 :(公式サイト)
ランク:S

様々な思想、哲学が盛り込まれたある芸術家を取り巻くお話。
創作物への愛に気づきを与えてくれた本作に只々感謝を。
※後半ネタバレ有

【はじめに】

文章が長くなり過ぎたので前後編に分けています。Ⅳ章以降のネタバレ感想は後編に書いています。

【攻略順】

<実攻略順>
真琴 → 稟 → 里奈(優美) → 里奈 → 雫 → Ⅳ → Ⅴ → Ⅴ(藍) → Ⅵ

<推奨攻略順>
稟 → 真琴 → 里奈(優美) → 里奈 → 雫 → Ⅳ → Ⅴ(藍) → Ⅴ → Ⅵ

※ほぼ固定ですが下線引いた箇所は逆にできます。変更しても大筋に影響はないので、その時の気分で決めてもいいですが、里奈だけは優美を先にするのがいいと思います。

【感想(概要)】

〇徐々に明らかになる因果にまみれた過去
過去にヒロインと何の因縁があるのか、主人公には何があったのか、闇の中に隠れている様々な因果が、徐々に明らかになっていくのが、本作最大の面白みだと思っています。特にⅢ章の最後たる雫ルートの収束は脅威的と言ってもいいです。

△作品全体として未集束
Ⅵ章にて確かに本作は完結しています。ただⅣ章以降は続編ありきで描かれています。無論その存在は明らかなので、問題ではないのですが、発売までの年数を考えると区切り方、売り方に工夫する余地はあったかなとは思います。

〇創作物に対する思想
作品とはどうあるべきかというライターの美学が非常に良く出ています。私個人の美学とも符号する部分が多く好感触です。逆に私の中にある筈の思想がポンポン言語化されていて、気味が悪かったくらいです。

×テンポが度々死ぬ
ただでさえ長いのに引用とボカシのせいで冗長化しているのは褒められません。特に引用については、酷い時は引用に引用を重ねるので、自分の言葉で喋れよと言いたくもなる場面もあったりします。

【まとめ】

個人的にはⅢ章までの出来は圧巻です。ヒロイン達との過去の因果が詳らかになっていくのは快感ですらあります。そのシナリオ構成は手放しで褒められるレベルのものです。まぁ要するに好きってことです。

ですがⅥ章は作品としてまぁ着地はしてますし、そのオチに納得もしていますが、続編たる「サクラノ刻」をプレイしないと真価を判断できないというのが正直なところです。ですから大層期待させてもらいますよ。

最後に感謝をさせていただきます。本作を通して自分が作った物に、思っていた以上に愛を持つ人間だということに気づきました。こんな収穫は滅多にないです。プレイして本当に良かったです。
※以下はネタバレ有感想です。







【感想(序章~Ⅲ章)】

■序章~Ⅰ章
この辺りはまさしく序盤といった感じで、舞台とキャラクター紹介。そこに潜む謎のばら撒きの役割の側面が強いかなと思います。

そんな中で異彩を放つのが御桜稟脚色の「幸福な王子」です。脚色部は比較すれば分かることですが、王子がキスを求める部分ですね。この王子の愛は、不特定多数の誰かではなく、唯一人だけに向けられたものなので、「幸福な王子」の物語の性質とかけ離れています。

そしてこの脚色部こそⅢ章で稟が実行していたことに他なりません。この続きはⅢ章にて語りましょう。


■Ⅱ章
20210920-01.png
本章の良いところは「櫻達の足跡」という本作を代表する作中作の、経緯すべてが章単体に収まっている美しい構成です。

前半は明石が何をしようとしているのかで中々焦らされます。情報によってパズルのピースは埋まれども、それが何を示すのか分からない。ですがこのじりじりとした感じ嫌いではありません。

何せ最後に遺産の設計図というピースが埋まったとき、全ての点と点が繋がり真夏に咲く桜の全貌が見えるのですから。焦れとはこの快感の前のオードブルなのですよ。

そうして作成されたこの"櫻"の作品は、全てが美しさで満ちています。明石の妹達への想いと努力、美術部員達が"楽しく"作る様、草場健一郎が込めた心、その全てがです。美とはかくあるものなのかと思わずにいられませんでした。

最後に明石が作品が何のために生まれてくるか分かっていれば十分という、とても大事な言葉を語っています。そうです作品は"望まれて生まれてくる"のです。そして込められた思いを遂行することが、作品にとっての幸福だと私は考えています。


■Ⅲ章
稟が直哉を銅像にしないため燕に縛りつけることが本章全体の意義です。そのため本人ルート以外は全部彼女の働きがあります。

●Ⅲ-Ⅰ:御桜 稟
20210920-02.png
意識されたという事実を認識しただけでイってしまう辺り、好きとかそういう次元なのか疑わしい。好感度カンストを通り越してバグの領域。直哉の方も大概で他ヒロインより発情度合いが段違いなので、魂レベルで惹かれあっているってヤツなんでしょうね。この2人。

シナリオ全体が事件のあったXデイに向かう不穏な空気の中、「吹という人形」と「火事」これらのピースがそろった時、私は半分BAD ENDを確信していました。仮面が剥がれて表情豊かな彼女が見れてたばかりに、やるせない気持ちで一杯だったのを覚えています。

ただ蓋を開けてみればハッピーエンドで困惑したのを覚えています。まぁ罪とは背負うものなので直哉と一生を添い遂げるというのは正しいのですが、あの錯乱状態で納得するにはちょっと物分かりが良すぎますね。何かもう1つ、こちらが納得できる材料が欲しかったです。


●Ⅲ-Ⅱ:鳥谷 真琴
20210920-03.png
秀才の極地。彼女の凄いところは受け手のことをこれでもかというほど考えてるその創作姿勢です。再現性のないものは失敗作。求めた全ての人に平等の品質を届けるというのは、創作における理想の1つだと思っています。

また最善最良の道を行くその姿勢と行動も彼女の魅力の1つです。さらにこれは本ルートのテーマそのものでもあります。彼女は最善最良の道を行き妥協しなかったからこそ、中村麗華に対して勝利を掴むことが出来たのです。

ですが彼女の悲願に対してはそうではありませんでした。人事尽くせども天命足りず、2人の天才の顕現という"月"に手が届きませんでした。何故こちらは届かなかったのか、それはやはり天命(運)の介在する予知が大きすぎたのでしょうね。Ⅵ章を読んだ後だと良く分かります。

人は手に入らないもの程欲しくなりますが、それを困難と理解し立ち向かうのは勇気ですらあります。「reach for the moon」この言葉が本ルートには相応しいです。


●Ⅲ-Ⅲ:氷川 里奈
20210920-04.png
無垢な白が似合うその裏腹に、孤高で強かった優美の牙を抜き、直哉の博愛の危険性に気づいた、白と真反対の黒いもの抱えている白い傘の毒キノコ。…と本人が思ってるだけで、恋した相手と親友がおかしいだけの恋に臆病な普通の少女。

事実として優美の強さは健在で、千年桜を跳ねのけた事実がそれを裏付けます。さらに博愛の危険性も恋から単に逃げるための口実に過ぎません。直哉と稟にクソ重い愛のロジックをぶつけられて、ボロボロにされたのは正直可哀そうなぐらいでした。

また、このルートは特殊な構成で作られていると思っています。里奈に危険性を付加しておきながら、それを優実を際立たせるための要素にしか使っていないのは驚きです。サンフラールSをググられることを想定しての構成だとしたら大したものです。

●河内野 優美
20210920-05.png
本ルートの主演である牙を抜かれていない狼。月が手に入ると言われても、"好きな人に幸せになってもらいたい"という本当の願いを違えず、奇跡を否定した彼女の崇高な精神は褒められるものです。名は体を表すとはよく言ったものです。

里奈と優美の関係も決定権が里奈にあると見せかけて、最終的な決定権は優美にあったという逆転が個人的な見解です。

千年桜の否定は言うに及びませんが、Marchenルートの場合も、"中原中也の本を投げ捨てる"="滅私奉公が出来ず、里奈を受け入れてしまった自棄"と考えられて面白いです。

最後に丘村くんと出会えたのも個人的には奇跡だと思っています。本作では悪い意味ばかりで使われがちですが、こういう起こるべくして起こる奇跡があってもいいんじゃないですかね。


●Ⅲ-Ⅳ:夏目 雫
20210920-06.png
作品の中核に存在する直哉、稟、雫、健一郎の過去に何があったのか、全てが明かされるこのルートを私は「サクラノ詩」という作品の実質的な最終ルートと捉えています。正直トチ狂った面白さでした。

<雫について>
このルートで語られたことを考えれば、雫が直哉を好きなのは必然ですらあります。まずベースになったのが稟なら影響を受けるのはやむなしです。野外オマンコくぱぁする淫乱さも、あれがベースになっているのであれば理解できます。

ですがベースはあくまでベースに過ぎません。彼女が好きになったのは救われたのが大要因です。こういうとき15億というのは非常に分かりやすい指標ですね。実に狂った額です。

彼女からすれば、千年桜の負い目がある健一郎は分からなくもないです。ただ直哉が何故ここまでするのか理解できないでしょう。その身に起きた幸福に理解は及ばず、ただただ涙するしか他にすべは無かったのです。

もはや好きとかそういうレベルではないです。雫にとって無条件に彼のためになるしか他に報いる方法がありません。そう考えれば女優になったのは彼女なりの付加価値の付け方だったのかもしれませんね。有名女優の自分の体なら少しは返せると考えてもおかしくはないです。

<健一郎について>
彼は幸福な親であったと断言しても良いでしょう。死に土産として「桜七相図」は余りにも出来が良過ぎています。そして自分が成せなかった雫の救済も達成した。こんな親孝行が他にあるでしょうか。

「桜七相図」は、まさしく"墓碑銘の素晴らしき取り違い"。最上の生前葬です。だからこそ六相図が「横たわる櫻」の流用なのは頂けません。ここを作らず何のため10年以上費やしたのかと言いたいです。もし六相図があれば落款印を刻むシーンは不朽の名シーン足りえたでしょう。

<稟について>
その才能は示唆されていましたが、まさか感情を見れる共感覚を持ち、空に絵を描く次元とは思いませんでした。その名が示す通りまさしく天稟の才の持ち主としか言えません。

そしてここでようやく彼女の根源が分かりました。それは直哉の才能が刻限に至る前に、同レベルでの共作をすること。ただそれだけであると。そして記憶を失っても、直哉の危うさは直感で理解していたから、他の娘とくっつけようとしたのでしょう。

この解釈は合っているかはどうでも良いです。この時を以てただ愚直に直哉だけを想う、彼女の味方でいようと私は決めたのですから。


→Ⅳ章以降は後編をお読みください。

ラベル:
posted by paurun at 23:18| Comment(0) | ランクS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください